医者と働き方改革
誠に残念に思うことは若手の内科医から患者の主治医という意識がなくなったことである。
休みは休み。
自分の患者という意識がないから、受け持ち患者が急変しても知らないし、看取って貰った時に他の医者に対応してもらっても礼も言わない。週末に受け持ち患者の採血をオーダーしておいて、診察と採血の確認をお願いしますと院内メールが送られて来る。
これまでこのようなことは経験したことがなかった。
僕が医者になったばかりの時は、休みというものは有ってなかった。
「月月火水木金金」という歌があるが、月月火水木土土だった。土曜日は午前中のみ。夜中に患者が死ぬと電話で呼ばれてお看取りに行く。それで何にも不満もなかった。休みの日はゆっくりと病棟の患者を診察ができた。
が、その文化もここ5−6年でたえて無くなった。休みの日は病棟は看護師さんだけが忙しく動いている。
3年目の医者とペアで患者を見ているのだが、私(指導医)は土日のどちらかは必ず回診する。患者が重症であったり薬剤調整が必要な場合は土日とも行く。が、3年目の方はこない。私が来ていることを知っていてもこない。
これが「働き方改革」の実態である。
「私たちの病院はオンオフがはっきりしていて働きやすい」とかいって、若手に病院に来てもらう際にアピールする材料にしている。
情けないったらありゃしない。
土日休みの病院があったら週7日のうち2日休み、祝日があれば3日休むことになる。
彼らがいうには「労働者として休む権利がある」という。そして「業務内容も適切に果たしている」というだろう。
確かにそうだろう。みんな真面目に勉強し、真面目に患者を見て、頑張っていると思う。業務時間内に限っては。
以前私が勤務していた病院は3人1チームで患者を担当していたので休みの日は必ず一人出るという当番制で患者の診察は義務だった(ただしロハなのでブラック病院という噂が立っていた)。それならば休みの日は堂々と休んだら良い。
そういう安全対策をせずに土日祝日を休みにして当直医に任せきりにするのは危ないと思う。私はこの体制を提案したことがあるが、あっさりと却下された。
休める時には休むという自由はあった方が良い。
ずっと休みなく働けと言われたら私も権利を主張し反発する。
が、2日3日と休む時少しぐらいは彼らの心は痛まないのだろうかと思う。
入院中の患者を放ったのだから休むことに後ろめたさぐらい感じて欲しい。僕は1日休んだ次の朝に入院患者さんに会う時に後ろめたい気分を感じる。
「働き方改革」「オンオフ」という言葉はこの後ろめたさを排除し、堂々と休むことを可能にしたように思う。
まったく世の中は便利な方向へ進むものだと感じる。それを進歩と呼んで私たちは疑わない。
そして私たちは、誰かの便利は他の誰かの犠牲のもとに成り立っているという想像力すら持たない生き物である。