無題

小言

効率的=合理的ではない

今回コロナが流行って思うことがある。

「黒字」病院が以外にもろいのではないかということだ。

当院は赤字病院である。医者の便所は和式である。病床利用率も7割よくて8割ぐらいで入院させたいときに入院できなかった経験が一度もない。

これまでの病院だと、入院させたくても満床で、小さな病院へ転院させなければならないということがあった。

我々内科も救急車や紹介をできるだけ受け入れ、頑張っているが、病床が埋まることは滅多にない。

経営効率が求められ、経営母体の本部からは当院は病床利用率が低いことが特に減点対象らしく、落第生としてマークされているらしい。

 

経営側からは、一つ病棟を潰すかどうかがよく話題になっていた。

僕はそれには反対だった。反対の理由は、これまで長く続いた病棟を潰すと、看護師の解雇が起きる事、一度潰したものは元には戻らないというのが理由だ。

 

そんな中でコロナがやってきた。

最初はダイアモンドプリンセスの受け入れに始まり、首都圏に行って感染してくる患者、キャバクラやホストクラブの従業員、アジア系外国人、市中でのクラスター、病院内クラスターなど次々とコロナを受け入れた。

市内には600床クラスで、いつも満床に近く、バンバン受け入れる地域の基幹病院があるが、コロナ患者はICU管理の必要な重症者以外は殆ど受け入れなかった。

もう一つ、(不要と思われる)カテーテルや整形外科手術、検診をバンバンやって儲かっている怪しい病院があるが、そこも受け入れなかった。

 

その基幹病院でコロナのクラスターが起きた。自分の病院では見ることができず、患者やスタッフが当院に入院してくる始末だ。

確かにその基幹病院はいつも頑張って患者を受け入れて忙しいのだ。救急外来のベッドはいつも患者でいっぱいで、「断らない救急」を実践しており、医師・看護師は黙々と働いており、殺伐とした空気が流れている。

忙しすぎて受け入れたくても受け入れる余力がないのだ。

 

その病院内のコロナに対する対処も首をかしげるものだった。

クラスターの起きた病棟を閉鎖し、濃厚接触者を隔離し、看護師を一斉に休ませるかと思いきや、「PCR陰性」を根拠に看護師を働かせていた。そして濃厚接触者も「PCR陰性」を確認後に帰宅させた。

その看護師たちはどうなったか、最初は陰性だったが後から症状が出てきてPCRが陽性になった。ずっと個室に入院していた患者もコロナに感染した。帰宅した「PCR陰性」の患者も帰宅して発病し、家族に感染したという例もあった。

このえげつない対応は幹部を交えた会議で決まったという。

いつもギリギリのマンパワーで病棟をフル回転させてきたため起きたのではないかと思う。

 

これまで僕が働いてきた病院は赤字経営ということはなかったのだが、この病院は赤字だった(コロナのあとのことは知らない)。つまり看護師や医者にはまだ余力があるということになる。その結果、一つの病棟をコロナ専門病棟にするということができた。

そして、潰されそうだった病棟の看護師は忙しく働いている。

 

我が国では医療費抑制の観点から、病院経営の効率化をはかるという流れになってきている。が、おそらくこの流れで病院の統廃合を進めると、いざという時、こういう危機に対処ができない可能性がある。そもそも診療報酬は低めに設定されており、病院はよほど効率がよくないと儲からないようになっている。

そこで儲けるためには悪を働く必要がある。その悪は、研修を名目に人件費を削ったり、一人の医療者が能力以上にたくさんの患者受け持ったり、必要のない治療、入院をさせたりすることにつながる。

 

白状すると、僕は以前だったら、「赤字経営ならば病棟を一個潰す」側にいたと思う。いわゆる緊縮財政の考え方である。が、いつしか経営なんて糞食らえと思うようになった。勤務医の身勝手な考えである。

緊縮の考え方は無駄を排するという合理的な仮面を被っているが、他人を切り捨てるのもやむなしという冷たさを持っている。

 

効率的=合理的ではない。